まなぶ

グローカル学習、ポートランドでフィールドワーク

2017年3月14日 10:15 AM まなぶ--グローバル

「グローカル」という言葉を耳にしたことがあるだろうか?「グローバル(地球規模)」と「ローカル(地域)」を組み合わせた造語である。この「グローバルに考え、ローカルに行動する」という考え方が今、地方大学で盛んになっている。その背景には文科省が平成27年度から地方創生の一環として整備を進める「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業 (COC+)」がある。地域や企業との協働・連携推進をカリキュラムの一環として行う地方大学を支援する内容で、地域社会を担う人材育成が狙いだ。(草原 広樹・早稲田大学)

再開発事例として有名なパール

広島修道大学の「ひろみらプロジェクト」もそのCOC+事業参加大学プロジェクトの一つである。同大学では「ポートランド・グローカル・イノベーション セミナー」という、短期留学プログラムを今年スタートさせた。学生たちは「全米住みたい街No1」とも称されることの多い、アメリカ西海岸に位置する地方都市ポートランドで、海外における都市政策と市民参加型社会の先進事例を学ぶ。

2017年2月中旬、学生10人が「全米住みたい街No.1」「環境に優しい街」として知られるアメリカオレゴン州、ポートランドに降り立った。本プログラムは私立広島修道大学の地域イノベーションコースのプログラムの一環である。プログラムをコーディネートするのは、去年広島修道大学と提携したポートランド州立大学の公共サービス研究実践センター。

東京財団主催による、地方公務員の人材育成プログラムの研修地としての13年以上の豊富な経験を生かす。街づくりといえば建物等の「ハード」が注目されがちだが、住民主体の街づくりや、行政やNPOの役割という側面など、ポートランドの「ソフト」の面を研究する、いわばポートランドの「知の拠点」だ。

本プログラムに参加する以前から、広島修道大学の学生たちは地元に強い関心を持って1年次から上記「地域イノベーションコース」で、受講してきた。座学だけでなく、数人ごとのグループで大学を飛び出して、過疎化や高齢化等が深刻な中山間地域で課題を解決するロジェクトを行ったり、空き家を地域の情報拠点として活用する為にリノベーションしたりした。

中山間地域と都市間の交流を目指して、特産品を生かした商品開発の企画から広報、販促までを行うグループもあった。いずれも学生が主体的に動き、地域と大学の距離が近いのが特徴だ。自分たちの地元にいかに知見を持ち帰るのか、街づくりの成功事例として知られるポートランドでその秘密を探るために気合い十分の表情をしていた。

プログラム内容は授業とフィールドワークで構成される。授業内容は、ポートランドの歴史から、市民参加促進の仕組み作り、日本と異なるアメリカの法制度、サステナブルな街作り、スモールビジネス、都市近郊型農業まで多岐にわたる。フィールドワーク先では「本当に住みやすい街なのか」生の声を求めて街角でインタビューや、再開発エリアの観察、今のポートランドを陰日向で作ってきた行政官やNPO団体代表への通訳を介しての質疑応答の機会が設けられた。理論と実践が組み合わされたことで、全身でポートランドを感じるプログラムとなっていた。休み時間には日本語を学ぶ現地の学生と交流した。

住民へ取材する学生たち

プログラムでは物事を色眼鏡で見ず、多角的に、ありのままに見ることが参加者に共有された。これはポートランドをただモデル都市として見るのではなく、ポートランドを通じて、地元広島の魅力を「再発見」することが目的の一つにあるためだ。

渡米前に事前講義を通じて、「なぜポートランドが住みたい街全米No.1なのか」を一通り学んできた参加者だったが、実際に街を歩いて見えてきたのは住みやすさと同時に、人口流入による土地価格の上昇や、アメリカならではの車社会がもたらす交通渋滞の深刻化、ホームレスの増加等、地元広島とは大きく異なる社会問題だった。

渡邊 遥さんは、「事前学習ではある意味でバラ色の『理想都市ポートランド』をなぞっていただけかもしれない。それは市民が主体的に声をあげ、行政が市民の声を全てすくい上げ、政策に反映させるというイメージだった。しかし実際に街を歩き、インタビューをしたことで自分の考えは少し変わった。それは市民の不満や地域課題が完全に解決されているかどうかは最重要ではないということだ。大事なことは、行政やNPOによって今なされている課題への対処策が、地元の住民に共有されていることではないか」と話す。

学校向けに体験農業を提供したり、地域の人々の憩いの場になっている農場「Jeans Farm」の見学などを通じて、波志 千幸来さんは自身の持つ農業へのイメージが変わったという。渡米前から、前述した大学プログラムを通じ1年間かけて農業が盛んな中山間地域でプロジェクトを行なっていたものの、農業に対して、「高齢者が中心でしんどい仕事」というネガティヴなイメージがどうしてもあったと語る。

しかしポートランドでは「農業は若者が中心的な担い手であり、皆で協働する仕事、そして次世代へ橋渡しをすることができる」とポジティヴに捉えた。百聞は一見にしかずとはまさにこのことだろう。

毎週末にポートランド州立大学構内で行われるのは、「ファーマーズマーケット」という多くのブースが並ぶイベントだ。地域の人たちの手作り野菜やジャム、加工品を販売するブースが立ち並び、大勢の人で賑わう。日本における産直市の世代年齢の幅を広げ、カジュアルにしたイメージだ。地元のバンド演奏が穏やかな休日の空間を演出している。ここでも農業に対する価値観、印象の変化を感じた学生も多かったようだ。

ファーマーズマーケットを見て、「地元の人が大学構内に普通に入っているのが良い」と少し毛色が異なる感想を漏らしたのは、冨永 里歩さんだ。一見些細に思える気づきも、以前に大学のプログラムで地域の住民に「地元の大学に何を望むのか」聞き取りをした際に、「大学に入りづらい」という声を聞いた経験があってこそだ。同じものを見ても感想や学びは多彩だ。

ポートランドを一躍有名にした再開発の成功事例「パール地区」を見学した。20年前から開発に関わったポートランド州立大学教授サラさんは「住民の意見を街づくりに反映させる仕組みであるコミュニティー(ネイバーフッド)はポートランドの街つくりの住民参加の成功の源として美化されがちだ。しかし、決してシステマティックで綺麗なものではない」という。「自分たちの地元をより良くするための、泥臭い会話、集会の場をわざわざ外国から見にきてくれる人々を見て、地域の人たちは非常に誇らしく感じる」とも付け加える。

フィールドワークとインタビューを終えて、地元広島へ持ち帰る知見を得られたか、地元の魅力を再発見したか、という筆者の質問に対し、波志 千幸来さんは「地域でプロジェクトを頑張っている時に自分たちが何をやっているのかわからなくなる時が時々あった。自分たちのプロジェクトを客観視することができたかもしれない」と答えてくれた。

街を歩きながら、ポートランドの魅力を探る

プログラムの最後は、学生たちの学びの総括と発表で締めくくられた。「情報密度の濃い授業とフィールドワークで最初圧倒されたが、今までの人生で一番濃密な十日間であっという間だった」という率直な感想から、「過疎や高齢化社会では人口増加が万能な正解だと思っていた。しかし人口増加は家賃の高騰や多様性の尊重という新たな問題を生んでいる。物事には必ず良い面だけでなく悪い面がある」「今まで『地域活性化』をモットーに、集客を目指して特産品の販売、プロモーティングを頑張ってきたけれど、こちらの体験を経て、自分たちがやってきたことが果たして地元の方々が本当に望んでいたことなのかわからなくなった」という気づきも次々と上がった。筆者はどれも渡米前に地元で街作りや地域活性化を真剣に考え、実践してきた学生ならではの問いを深めた言葉だと思った。

日本に興味があるアメリカ人学生だけでなく、行政学や市民活動等の専門家も参加した客席からは、「ポートランドの発展の要となったボトムアップの政策合意形成は積極的な市民参加があってこそだ。そのためにも市民の意見や感情をどうすくい上げるのかが重要だ。ではそこで自分たちの地元への愛着や情熱をどう地域つくりに繋げるのか」など、プログラム参加者の熱気に負けない質問が投げかけられた。

最終日のプレゼンテーション後

最後に沖尾 祥之さんは「大学生として地域に入りプロジェクトをすることは、その街や村を盛り上げるのに有効だと思っている。この経験を糧にして今後より発展させたい」と語りプログラムを締めくくった。

本プログラムの帰国報告会は一般公開で3月14日(火)に広島修道大学で行われる。プログラム一期生であると同時に、社会への最初の一歩となる就職活動を控えた彼らが、ポートランドで何を見て、体験し、学んだのか。その学びをどう自分たちのプログラムで活かすのか。短期間ながらも濃密なポートランド滞在を経て再発見した地元広島の魅力とはー。彼ら自身の言葉でグローカルな学びを語ってくれるに違いない。地域と大学が一体となった場所で、彼らのグローカルな学びは続く。

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◆ボランティアとしての感想
筆者は本プログラム受け入れ先(ポートランド州立大学公共サービス研究実践センター)でインターンをしている留学生で、ボランティアとして関わった。

街角でのインタビュー等を行う機会でも、言葉の壁に怯まない彼らには、学びへの強い意思を感じた。毎日深夜まで話し合いを重ねるほどの、海外という非日常的な興奮を差し引いても余りある高いモチベーションはどこからくるのか。

「プログラムに選ばれなかった友人もいるから。。」というどこかひっそりとした答えには、学びを持ち帰る場があることの大切さと、この短期留学プログラムを自分たちだけの楽しい体験で終わらせない友人達への思いが宿っていた。

彼らのように「故郷」とも言える地域に対する強い思いを持つ学生が、グローバル都市を目指す東京にどれほどいるだろう?「グローバルに考え、ローカルに行動する」という「グローカル」をまさに体現する学生と留学プログラムだったように思う。

通訳の言葉に耳をすませ、自分の言葉で疑問を投げる同世代の学びの姿勢は、海外体験を通じて過去の日本での自身の経験と価値観を客観視、相対化することの意義を、日々の課題にただ忙殺されていた私に改めて教えてくれた。

体験が言葉になり、行動となって社会に変化を起こすには時間がかかるに違いない。今回の学びもどんな形でプログラム経験者の中で、実を結ぶかはまだわからない。しかし地域に知識を還元するという姿勢はプログラム参加者が皆共有していたように思う。

「誰かのために」そして「チームとして」学ぶことの魅力を感じた。彼らのグローカルな学びが芽吹く土壌は広島にあるのだろうか。広島修道大学は学生の8割が広島出身であり、6割は広島に就職する、まさに地域と共に生きる大学だ。イノベーションにおける人材の多様性の重要性が叫ばれる一方で、人材流動化の停滞と地域課題解決に有為な人材育成という、矛盾するかのような課題を大学と地方は抱えている。「グローカル・イノベーション」を掲げた本留学プログラムは地方大学の未来を占う試金石になりうるだろう。

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