はたらく

脊損者が問う、「なぜ日本に歩くためのリハビリがないのか」

2017年2月3日 6:41 PM はたらく--挑戦者たち

Re:Walk Project運営事務局は4月1日、ゲートシティ大崎で脊髄損傷者向けのイベントを開く。このイベントでは、脊髄損傷者に「歩くためのリハビリ」について説明する。日本の医療ではなぜ歩くためのリハビリがないのか、その原因と解決策について、イベント主宰者の木戸俊介さん(30)に聞いた。

海外でリハビリ医療に挑んだ木戸さん

木戸さんは2015年4月、交通事故で脊髄損傷になった。医師からは「一生歩けない」と宣告されるも、歩くことを諦めず、リハビリ医療が発達しているオーストラリアや米国に活路を見出した。渡航費などはクラウドファンディングで資金調達を行った。

木戸さんは、「脊髄損傷になっても選択肢を増やしたい」と、海外のリハビリ医療について情報発信を続ける。オルタナS編集部では、木戸さんに「日本で歩くためのリハビリが行われていない原因は何か」、「Re:Walk Projectではその原因をどのようにして解決していくのか」の2つの質問を聞いた。

―Re:Walk Projectでは、「歩くためのリハビリ」を紹介していくとのことですが、日本ではそれが進まない原因は何があると考えますか。

まず前提として、日本の医療において、完全麻痺と不完全麻痺に対するアプローチは決定的に違います。

完全麻痺者(受傷後、脚がピクリとも動かせない人)は基本的に「一生車いす」と診断され、歩くリハビリは行いません。

不完全麻痺者(一部、神経機能が残存し、脚が動かせる部分が残る人)は再歩行を目指して歩行訓練を行います。

なぜ、そのようになるのか?
そこには、大きく分けて三つの要因(課題)が存在していると思います。

要因①日本医療の常識と医療保険制度

実際、完全麻痺者では、不完全麻痺者と比べ再歩行獲得に対する可能性は断然低いと思います。そのため、完全麻痺者に対して歩くためのリハビリを行ったとしても、可能性は低く、それが何年かかるか明確ではありません。

治るか分からない患者のリハビリのために、一生、国の医療保険で保障することはできません。だから、日本の医療では原則「再歩行の確立はゼロ%」と宣告します。(「曖昧なことを言って後で問題にならないよう、宣告せねばならないと教えられる」と話を聞いたお医者さんは言っていました)

そして、完全麻痺者はまず「車いすでの社会復帰」を目指すことになります。まずは一人の人として社会復帰をして自立を目指します。これは非常に重要なことだと思います。

また、日本の医療は先進的なので、歩くリハビリよりも再生医療に力を入れている、という側面もあると思います。しかし、再生医療の手術だけがフォーカスされ、術後のリハビリの重要性が見えなくなっていないのでは?という疑問も感じます。

これは我々の解釈ですが、日本の医療では完全麻痺者の再歩行の確立はゼロ%です。でも、そこにはからくりがあり、日本の医療界では、「脊髄損傷(完全麻痺)=一生歩けない」という宣告をする限り、歩くリハビリをしている人は原則いません(ごく一部の研究対象者などは除いて)。目指した人がゼロなのであれば、一生ゼロ%のままなのです。

要因②医療界のピラミッド(既得権益の保護)

また、海外での半年間の生活を通して私たちが受けた印象ですが、海外の理学療法士(PT)は開業権があり、日本のPTよりも社会的ステイタスが高いということも歩くリハビリが浸透しない一つの理由だと考えています。

オーストラリア(や米国)では開業権があることで、医師の指示だけでリハビリするのではなく、独自のリサーチとノウハウを持ってどんどんリハビリの研究をするPT、もしくはエクササイズトレーナーが多くいました。

その証拠に米国、オーストラリアでは再生医療の研究においても病院と民間のトレーニング・リハビリ施設が手を取り合って再生医療(手術)とリハビリの効果を研究しています。

実際に私がトレーニングをした施設「メイキング・ストライズ」も、今年からグリフィス大学の研究機関とパートナーシップを組み研究を進めることが決まりました。

これは研究結果の可能性という面でも期待できますが、多くの脊損患者とコネクションを持つPT、エクササイズトレーナーが再生医療ができる病院、研究に協力したいという患者を見つけることにもメリットがあると話していました。

一方、日本では医療界のトップにいる「医師会」の力が非常に強く、PT、OTは必ず病院に所属し(開業権を持たず)、医師の指示の元リハビリを行います。

リハビリ医療は「病院内の施術(今回はリハビリ)=既得権益」という意識が強く、医師が外部の民間施設を紹介することはありません。

さらに、この後述べる3つ目の要因で説明するように、日本では「患者の窓口は病院」になっているため、患者が「歩くリハビリ」の存在を知る機会がない、という構図になっています。

要因③患者側の意識

最後に、患者の意識の違いが大きいです。

日本では、国の医療保険制度が整っていることもあり、患者が払う医療費は3割負担で済みます。しかし、民間のリハビリ施設では医療保険が効きませんので、支払いはもちろん全額負担です。

それでも、「歩きたい」と思った患者は、数少ない外部の民間施設にすがるように相談にいきますが、その施設の金額を病院の医療費と比較し、「法外な受診料」だと感じ、敬遠する方もいらっしゃるのです。

さらには、病院で外部の施設を紹介されることはないので、その存在すら知らない人も結構います。

実際、私が入院中に出会った患者さんの一人(脊髄損傷、胸椎12番、不完全)は、受傷歴10年で、私よりも脚を動かす機能が残存しているにも関わらず、「歩くリハビリなんて知らなかった」と言いました。

一方、私たちが現地をたずね実情を見た米国、オーストラリアでは、医療保険制度の充実度が日本と比較して低いため、患者(国民)は、自分の意志で自分の体や生活と収入に見合う民間保険を選択し入会します。

そのため、病院と民間施設を比較しても、どちらかがものすごく高くなる、というケースが日本よりも起こりづらく、病院と民間施設の「リハビリ内容(クオリティ)」をみて、自分にあったリハビリを選択しています。

実際、民間施設のリハビリ費用は高いのか?イメージしやすいようにザックリ一般的な金額感での説明になりますが、脊髄損傷者のリハビリに必要な費用は、民間施設だと、だいたい1万円/1時間のリハビリ費用がかかります。

「高いなあ!病院だと・・・」と考えがちですが、例えば健常者がマンツーマンのパーソナルトレーナーを雇おうと思うと、1時間1万円は妥当です。

さらに、脊髄損傷者のトレーニングとなると、トレーナーは専門知識が必要で、さらに2人~3人体制でのトレーニングが基本になります。

こう考えると、少なくとも、「法外なぼったくりではない」と私たちは考えています。

金額が安いことに加えて、日本では「病院=正しい医療」というイメージが根強いこともあり、その他が法外のような印象を受けてしまう、ということもあると思います。

上記三つの要因が複雑に重なり合って、浸透しない環境があると思います。

さらに、補足として・・・
歩こうとするリハビリは、「再歩行」以外にもメリットはあります。

骨粗しょう症予防、股関節の筋萎縮予防(車いす姿勢でずっといると、股関節が伸びなくなる)、尖足(足に荷重をかけないと、足首が伸びた状態で固まり、立てなくなる)予防、代謝促進などがその代表例です。

歩こうとすることは、歩けるようになること以外に、健康の維持・増進というメリットがあるのです。これらを否定する医師はいません。しかし、日本の医療では歩くリハビリは行いません。

―Re:Walk Projectでは、その原因を解決するためにどのように活動していくのか。

上記の課題における最大の問題は、患者側が、「歩くリハビリが存在することを知らない」ことにあると思います。

歩くリハビリを知らずに、リハビリを止める患者がたくさんいます。希望しても、そのリハビリの選択肢や施設の情報すら知らないでやめる人たちもいます。

前述したように、歩くリハビリには、歩くことで健康を維持増進する、という考えがあり、
これは、日本の医師も否定していません。でも、歩くリハビリはしません(できません)。そんな矛盾があります。

Re:Walk Projectでは、私たちの経験をもとに「患者」という視点でフラットに情報を届けることを目的としています。

私たちはどうしても、「医療」と「民間施設」の間に溝があるように感じており、どちらかの立場で一方を肯定すると、一方が否定の立場になってしまうと感じています。

それは非常にもったいないことだと感じていて、私のこれまでの経験では、日本には病院にも民間施設にも情熱をもって素晴らしい研究をしている人々がたくさんいるのに情報が隠れてしまうこともあります。

しかし、私たちは患者という公平な立場で情報提供することで、歩くリハビリを考えている人によりフラットな情報が提供できるのでは、と考えています。

間違ってはいけないのは、私たちは歩くリハビリが正しくて、それ以外は間違いだ。と言いたいのではありません。車いすでの社会復帰を目指すことも大切だし、必要な過程です。

しかし一方で、歩くことを諦めずにリハビリを続けることも有益なことで、自分が目指したい目標を設定して、自分がしたいリハビリを選択し、そのリハビリを続けられる環境づくりを目指しています。

実際に私の脚は動くようになっていますし、メンタル面では肉体以上の充実を感じています。歩くリハビリを知り、リハビリを継続した人が、今よりも前向きに、目標に向かってリハビリ生活、人生を「歩んで」いってくれることを望みます。

「Re:Walk Project 脊髄損傷者のリハビリ報告会 supported by GREEN FUNDING」
主催:Re:Walk Project運営事務局
日時:2017年4月1日(土)14:30~16:30 ※時間は変更の可能性もございます
場所:ゲートシティ大崎(JR大崎駅徒歩1分)http://www.gatecity.jp/access/
対象:興味のある方全員(主に脊髄損傷者とその家族)
会費:無料
参加申し込みはこちらまで:rewalkproject2016(a)gmail.com *(a)をaに変えてメールしてください

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