はたらく

ラッシュジャパンの「エシカル」とは、他者への尊重

2012年8月31日 1:03 PM はたらく--エシカルな働き方

*この記事は、デルフィス エシカル・プロジェクトのブログ「エシカルでこんにちは」から転載しています。




NPOから株式会社ラッシュジャパンへ転身し、チャリティ・キャンペーンの担当として奮闘されている秋山映美さん。エシカルプロジェクトで是非お会いしたかった方のひとりです。以前CSR専門誌「オルタナ」主催のセミナーでご登壇されているのを見て、その歯切れ良い話し方と、ユニークな経歴に魅かれ、ぜひインタビューをしたいと今回お話を伺いました。



秋山映美(あきやま・えみ) 【株式会社ラッシュジャパン チャリティ・キャンペーン担当】 2002年8月からNPO法人監獄人権センターで事務局スタッフとして勤務(現在は理事として活動に関わる)。2009年7月にラッシュジャパンに入社し、「化粧品のための動物実験反対キャンペーン」「パームオイルキャンペーン」などの社会活動キャンペーンの企画・運営と、人権・環境・動物福祉の分野で活動する草の根団体を助成する「LUSHチャリティバンク」の事務局を担当。


-ラッシュジャパンに入社される前は、NPOで働いていたとお聞きしました。

秋山:2002年から7年間、NPO法人「監獄人権センター」という受刑者の人権擁護活動を行う団体で、たった一人の正式な事務局スタッフとして働いていました。センターの主な仕事は、受刑者からの「適切な医療が受けられない」などの相談について、アドバイスをしたり、弁護士に調査依頼する等の対応です。

相談の多い問題に関しては、ロビー活動や政治家へ政策提言を行ったり、啓発のためのパンフレットを作ったりしていました。そのような仕事の中、私は活動資金確保のため、助成金獲得に力を入れていました。

受刑者個人の支援を行っている団体は結構あるのですが、受刑者全体や刑務所をテーマにしているのは当センターくらいしかなく、その独自性のおかげで様々な助成金に助けていただきました。

助成金をいただいている1つにラッシュがあり、監獄人権センターの活動に共感して、評価していただいていました。それがキッカケとなり、「チャリティーを担当するNGO出身者の方を探しています。良かったら働きませんか」と声を掛けていただきました。

-ラッシュに入社後は、どのような仕事をしていますか?

秋山:入社当時はエシカルキャンペーンを担当していました。いわゆる販促キャンペーンとは異なり、最初に手掛けたのは核兵器廃絶キャンペーンです。

ちょうど NPT再検討会議(核不拡散条約の運用状況検討会)があり、ラッシュジャパンから核兵器廃絶を世界に発信しようと、国内でキャンペーンを展開しました。

そうしたところ、イギリス本社からニューヨークのラッシュ店頭で実施しようという提案があり、単身ニューヨークにわたり、現地のスタッフたちと一緒に店頭イベントや国連にデモ行進をしました。

現在は、化粧品の動物実験反対やパームオイルの抱える問題について紹介する活動に取り組んでいます。以前はラッシュのソープにもパームオイル由来の石ケン素地を使用していましたが、より環境負荷の少ないココナッツオイルと菜種オイルに変更し、パームフリーの石ケン素地を使用したソープをつくりました。

それをきっかけに、「なぜパームフリーなのか」を訴求するキャンペーンを行いました。マレーシア、インドネシアでは、熱帯林が伐採された後にアブラヤシのプランテーション*農場がつくられたため、そこに住むオランウータンは絶滅が危惧されていて、先住民族の人たちも住むところを失い彼らの生活様式がかわりひどい貧困状態になったり、ときには政府軍との争いになって命を落とすような状況になっているという問題をみんなに知ってもらおうとしたのです。

*プランテーション:熱帯、亜熱帯地域の植民地で、原住民や移民の安い労働力を使って商品作物(綿花・タバコ・ゴム・コーヒー・紅茶など)を栽培する大規模農園。

プランテーションの様子



キャンペーンを行う前に、まず社内で問題を共有しようと、原材料調達担当スタッフとショップ店長の2人と一緒に、この問題に取り組んでいる国際環境NGOの「FoE Japan」の案内で現地に行ってきました。実際にプランテーションを見て、さらに開発をするために切り開かれた山にも行きました。

山頂は全部伐採され丸裸で、伐採後にアブラヤシの苗が植えられていました。森は国有林ですが、先住民族の人たちが先祖代々使ってきました。その彼らの畑を取り上げたり、わずかな金額の利用料で借り上げているのですが、一度プランテーションになると、殺虫剤等で川の水や畑、山は使うこともできなくなるのです。

視察にて



-ラッシュジャパンでは、エシカルキャンペーンを年間どのくらい行っているのですか?

キャンペーンの様子



秋山:年2回ぐらいです。今は化粧品の動物実験反対に注力しています。

-動物実験反対の手ごたえはいかがですか?

秋山:ここ数年でラッシュの化粧品の動物実験反対メッセージが浸透してきて、お客様の反応はすごくいいです。わざわざ署名しに寄ってくださるお客様もいらっしゃいますし、採用面接の際に「ラッシュは化粧品の動物実験反対に積極的なアクションを取っているから、私はぜひこの会社で働きたい」というスタッフもいます。

集めた署名を環境大臣と厚生労働大臣に提出をすべく、NPOとともにアポイントを取り、環境省の動物愛護法を担当する局長にお会いました。「ぜひ環境省でリーダーシップを取って、他省庁を横断的に取り組んでいくようにお願いします」と陳情しました。

厚生労働省では、大臣にはお会いできなかったのですが、藤田一枝厚生労働大臣政務官に対応して頂きました。「動物実験廃止を求める会」や「アニマルライツセンター」という動物実験反対のNPOと大勢で行ったのですが、事前に省内を調査し、厚生労働省ではあまり取り組みがなされていないということを理解されていたようで、「これだけの市民の方からの要望があるので、厚生労働省としても積極的に取り組んでいきたいと思う」と言っていただきました。

翌日、厚生労働省から代替法に関するガイドラインが発表されましたが、これは急遽作られたわけではないと思います。そのようなガイドラインの案ができているという話もあったので、省内で放置されていたものを、藤田さんが今回の陳情を受けて、正式に公表することを決断したのではないかと予想しています。

-化粧品で動物実験が行われていることは、どの程度知られているのでしょうか?

秋山:自分が使っている化粧品が動物実験されているなんて考えたこともないという人がほとんどだと思います。化粧品は自分を美しく見せるために使うものなのに、その背景では動物が犠牲になっている。

致死量を調べるために何十匹ものウサギやマウスに飲ませて、どこまで強いものを飲ませたら大量に死ぬかとか、どこまで強い薬品を目に入れたらダメになるか、といった実験をしているのです。

ちなみに育毛剤も動物実験が行われることもあります。残念ながら、日本では動物実験反対運動を中心に活動をしている団体は少なく、アニマルライツの認識もあまり広がらず、なかなか話題になりません。

EUでは動物実験が禁止になっていて、2013年3月には動物実験を経た輸入品も全面禁止になります。ヨーロッパの団体は、その化粧品指令(Cosmetics Directive)の改定が延期されないように積極的にキャンペーンを行っています。

-ラッシュのエシカルキャンペーンの「エシカル」とは何を指しますか?

秋山:私たちの「エシカル」の解釈は、倫理的という文字通りの意味と、あとは他者への尊重です。他者とは人だけではなくて、動物だったり、環境だったりで、その他者をちゃんと尊重しましょうと考えています。

ラッシュとしては原材料調達でもエシカルを心がけています。動物実験をしないサプライヤーからしか買い付けないし、動物実験はもうやめますというサプライヤーがいたら、すぐにでもラッシュは契約しますと言う。ラッシュの力はそれほど大きくないですが、動物実験をやめるという一端になればという思いで行っています。

また、オーガニックでフェアトレードな原材料を調達する努力をしています。例えば、『オリーブ収穫祭』というボディーソープに使われているオーガニックオリーブオイルは、パレスチナの「ガリラヤのシンディアナ」という生産者団体が生産しています。

パレスチナの人々はイスラエルとの対立で住むところも奪われてしまって、オリーブをつくる土地が少しあるくらいになっています。彼らには本当に命の糧のオリーブなのですが、それを積極的に使って、ラッシュの商品を通じて、パレスチナの人たちがどのような状態にあるのか、これを買うことによってどのような支援ができるのかを伝えていきたいと思います。

ココナツオイルも、スマトラ島沖地震で津波被害に遭った島の一つであるニアス島のものですが、そこにはココナツで島を復興させていこうと始めた人たちがいて、その生産者から直接買い取りをしています。ラッシュから正当な価格が支払われ、子どもたちの教育支援に使われています。

『オリーブ収穫祭』のオリーブオイルや様々な商品に使用されているココナッツオイルは、イギリスと同じ調達先から仕入れていますが、よりフレッシュな商品をお客様に届けるにはフレッシュな原材料を使って、保存料をなるべく少なくして、できるだけ近くの工場で製造する方がいいと考えています。

今、ラッシュの工場はイギリスと日本とカナダ、オーストラリアの4カ所にあります。日本では、原材料はオーガニック等の指定に従って、できる限り国内で調達しています。季節によって仕入先はかわりますが、工場が神奈川県の愛川町というところにあるため、みかんやキウイフルーツなどはなるべく工場から近い小田原から仕入れています。

パイナップルは沖縄から。輸送距離が短ければ短いほどCO2の排出が少なくなるというのと、日本でも有機栽培をおこなっている農家さんが増えるように農家さんを応援するためです。

-ラッシュは、日本全国至るところに店舗があると思うのですが、なぜこれだけ広がったのだと思いますか。

*新宿駅前店



秋山:1998年に自由が丘に日本1号店が誕生し、14年で約150店舗に広がりました。一つは、やはり商品の持っている個性だと思います。ネーミングもユニークで、カラフルで、香り高いエッセンシャルオイルを使って、他にはない独特の香りがするところだと思います。

また担当者としてはエシカル活動が評価されて、ユーザーの層も幅広くなったのではないかと信じています。

固形の商品はラッシュのこだわりの一つで、ボトルが必要ないのでよりゴミが少なくてすむメリットがあります。海外では包装をせずに売っているのですが、日本では行政機関との調整の問題でパッケージ無しの販売には、なかなか許可が下りません。

そのため、薄いビニール袋1枚に包んでいます。例えば固形シャンプーは男性だと100回は洗えますが、これでシャンプーボトル3本分の石油を使わなくて済みことになります。お風呂に入れる入浴剤を固形にしているのも、同じ意味があるのです。固形にできないものは、容器をリサイクルしています。

ブラックポットといわれる黒い容器やシャンプーのクリアボトルのボトルトゥ ボトルを始めました。使用済みのボトルを回収してまたラッシュのボトルとなる仕組みです。容器回収はすごく支持されていると感じます。

※ブラックボトルとチャリティポット「しあわせの種まき」



もう一つの特長は、いま私が担当している売り上げの100%が寄付になる商品で、ボディクリームの「チャリティポット」です。2007年から発売し、寄付金額が2億円を超えました。毎月、それぞれの分野で活動をされている団体から助成金の応募があり、人(人権擁護、人道支援)と環境(保護活動)と動物(権利擁護)の3つの分野で活動している団体に助成しています。昨年は、3.11以降から1年間、震災支援に集中して、被災地支援活動を行っている団体に寄付や助成をしました。

私は企業での就労が一切なかったので、売り上げを立てるとか、利益を出すという経験がないのです。売り上げから遠い出費ばかりの部署なのですが、会社にとっては重要だとみんな思ってくれていて、エシカル的なエッセンスが必要になると、「いいアイデアは無いか」とか相談をうけることも多いです。

さすがに最近では、マーケティングを無視することはないのですが、売り上げを目的とした提案というのは、私から出すことはなく、「これは目の前にある問題なのです。今、解決しなければいけないのです」とストイックに言い続けました。

原材料のストーリーなどは、お客様以前にショップスタッフに伝える必要があると思っているので、年4回店長を集めた会議等で、「今回こういう話をしたいから時間をください」というのを入社してからずっとやり続けてきました。

ショップスタッフのトレーニング担当者の人にどうやってエシカルについて店頭スタッフに伝えていってもらうか、販売するときにお客様にどう伝えるか、ということにはまだまだ課題があるなと思っています。

教えられたことをしゃべるだけではなくて、スタッフ自身がリサーチし、考える力をどうやって付けてもらうかも課題です。ただ、そういう力を持って、と強制するのではなく、担当が私1人なので、スタッフが自発的に動き、仲間のような意識を持ってもらうようになればと思っています。

関心のある店長からは個別に連絡をくれて相談してもらえるようになりました。店でカスタマーズデーといって、ちょっとしたパーティーみたいな企画があるのですが、そういうときに、ときどきエシカルネタでやりたいという店長もいて、「秋山さん、こういうのをやろうと思うのですが」とか「材料になる写真とかをもらえませんかとか」連絡をくれるようになりました。こうやって、少しずつラッシュならではの意義を広めていけたらと思っています。




(インタビューを終えて)
インタビューでは、明快な話しぶりで前向きでアクティブな印象を受けました。ブレないエシカルな志を具体的な企業活動に結び付け、間違いなくこれからのエシカルキーパーソンのひとりだと思います。販売の現場の方とも課題を共有して同志を増やしながら、エシカルとマーケティングの連携を自然な形で進められている秋山さん。今後の活躍にも注目です!

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