はたらく

元NHKアナが改めて映画化した日米メルトダウン事故

2013年11月8日 4:59 PM はたらく--エシカルな働き方

日米メルトダウン事故の実態を明らかにしたドキュメンタリー「変身-Metamorphosis」(12月1日公開)を製作した堀潤さんは、「この映画で伝えたいことは、原発事故の杜撰な対応だけではない」と話す。NHKを辞め、市民から一次情報を集め、既存メディアで発信する仕組みを構築する堀さんは何を考え映画を製作したのか、話を聞いた。(聞き手・オルタナS副編集長=池田真隆、編集部員=倉野翔平)

インタビューを受ける堀潤さん。製作した映画は、圧力がかけられ、アメリカで行うはずだった上映会が中止になったことも

――堀さんが監督を務めた「変身-Metamorphosis」では、メルトダウン事故を起こした福島第一原発事故(2011年)、米国のスリーマイル島原発事故(1979年)、そしてサンタスサーナ原子炉実験場事故(1959年)を取材しました。マスコミ報道が少なく、認知されていなかった現状を映し出していますが、原発作業員からの内部告発映像もあるそうですね。

:この映画は、6割がぼくの取材で、4割が一般市民の皆さんからの投稿映像でできています。そして、4割のうち半分近くを占めるのは、原発作業員からの内部告発映像です。

中でも、メインで取り上げているのが、元作業員の林哲哉さん(41)からの投稿です。林さんとの出会いは、2012年4月でした。長野県の自動車会社に務めていた林さんは、原発事故後、テレビや新聞報道だけでは内部事情が分からず、自分自身で現地に行って問題点を明らかにしたいと作業員に応募しました。

林さんが福島に行く前に、何とかして原発作業員の内部事情を明らかにできないのか相談を持ちかけられました。そのときぼくは、メディア人として、カメラの使い方や資料の扱い方など取材方法をレクチャーしました。

作業員になることを決断した林さんの言葉はとても印象に残りました。

「このままでは、今、生まれた子どもが50歳になっても廃炉作業をしなければいけない。今のうちから、労働環境の整備をしなければいけない。将来世代にツケを残したくない」(林哲也)

ちょうどそのとき、ぼくはアメリカ留学に行ったのですが、ネットを通して連絡を取り合っていました。林さんが作業員として働いて2カ月後、フェイスブックにメッセージが来ました。林さんから、相談したいことがあると。

早速、スカイプで話しました。すると、おかしなことがたくさん起きていると分かりました。

まだ未成年の子どもたちが、関西や九州から携帯電話で募集サイトを見て、働きに来ています。彼らには、放射能や放射線に関する知識はまったくなかったと言います。知識がない状態で現場に送り込まれているのです。

さらには、嘘の履歴書を書かされていました。最初に下請け業者から、「この履歴書に記入して、元受けに渡してください」と、履歴書を渡されるのですが、そこには、働いたことがない会社名がすでに入ってるのです。元受けに素人作業員だとバレないようにするためです。

そして、作業員の知識がないことを利用して、「放射線は身体に蓄積しない。8日も経てば消えていく」と、誤った情報を伝えているのです。

また東電は、危険手当分を見込んで、お金を上乗せして、下請けに発注するのですが、法律で危険手当の額が決められていません。なので、下請けが抜いているのです。

林さんは元受けの担当者に、下請けの現状に対して、何も思わないのかと申し立てをしました。そしたら、「下請けがしていることで、こちらには関係ない」と返され、「それは無責任ではないでしょうか。あなたは自分の子どもをここに送り込めますか」と問いました。
そしたら、その担当者は「送り込めない」とハッキリと言ったそうです。そして、この議論をした翌日、下請けの会社に戻った林さんは、「余計なことは言うな」と怒鳴られ、解雇されたのです。

林さんから、映像と資料を通して、この一部始終を聞かされたとき、「これから、どうされたいですか」と尋ねました。すると、「告発したい。顔と名前を出しても構わない」と答えました。

「この劣悪な環境を看過できない。今、変えないと、将来、何も知らない子どもたちが被ばくしに行く事になる」(林さん)

映画で映し出した、原発内部の実情も伝えたいのですが、林さんの勇気ある行動こそ、ぼくが最も伝えたいところです。現場の当事者が問題意識を持って、自分で世の中を変えていく、そのような人をメディア人としてサポートしていきたいです。

■今日困っている誰かを助けて、明日救われるための解決策を提示する

――組織の悪を変えていくためには、林さんのように勇気ある内部告発者が出ることが必要です。最近では、産地偽装問題や秋田書店の問題、さらには覆面の現役キャリア官僚が執筆した『原発ホワイトアウト』(講談社)など、内部告発者が動き出していますが、告発者の保護が課題となっています。

:ぼくらは、林さんを守るために労働問題の相談役である派遣ユニオンを紹介しました。派遣ユニオンが味方に付けば、労働証明なども含めて弁護士なども付いてくれます。

そして、マスコミの記者たちも味方に付けました。ぼくが立ち上げた、8bitnews(エイトビットニュース)で初めて顔出しでインタビューしました。

そうして、林さんを保護するチームを構成し、すぐに、下請け7社に対して、事情を求める文書を提出しました。この労働争議問題には、朝日新聞、NHK、海外メディア、さらには報道ステーションの古館伊知郎さんが直接林さんにインタビューしに来られました。

大きな社会問題となり、去年の暮れには、東電は下請け企業全社に対して、作業実態の改善を目的としたアンケート調査を行いました。林さんの勇気ある告発によって、労働環境の整備が一歩進んだのです。

すでに、世の中は一次情報を本人が発信できる時代となりました。それを、どうサポートするかが、大きなメディアの役割です。市民からは一次情報を集め、プロたちが編集し、電波で流すようなパブリックアクセスが求められます。

この映画で伝えたい裏のメッセージは、「皆さん自身が社会を変えることができる」ということです。マスコミや国を批判していても、何も変わりません。なぜなら、この国はぼくら一人ひとりが構成員として成り立っているからです。

もちろん、変えたいと思った人を孤立無援にはさせません。ぼくはメディアにかかわっていた人間なので、良識あるマスコミ仲間たちでサポートしていきます。

――ソーシャルの時代になり、個人の発信力は確実に上がっています。内部告発の件数も増えるはずです。そうなると、数年後のマスメディアはどう影響を受けていくでしょうか。

:林さんのように原発問題という大きなテーマだけが内部告発ではありません。子どもを預けられない一人の母親の声でも良いです。このように規模は小さいが当事者が苦しめられている社会的問題は多く存在します。

マスメディアには、規模が小さすぎると、トップニュースとしては扱えません。仮に、待機児童の話がトップニュースになるには、東京都で待機児童0宣言が出ない限りあり得ないでしょう。今日預けられなくて困っているというニュースは取り扱われません。

でも、子どもを預けられなくて毎日悩んでいるお母さんはいます。そういう人をメディア人として救っていくべきだと、ぼくは思います。

ぼくらメディア人の仕事は、今日困っている誰かを助けて、明日救われるための解決策を提示することです。そのためのインフラは整備されています。すでにスマフォでハイビジョン動画が撮影でき、常時ネットと通じ、ユーチューブなどに無料で動画を投稿できます。なので、SOSが必要だと思えば、いつでも社会に対して発信できるし、解決策も発信できます。

しかし、それが個人の発信に終わってしまうと影響力が少ないです。10万回再生すれば、すごいと騒ぎますが、マスコミからしてみたら、10万回の再生回数動画は、視聴率にすると、0.01%以下で、番組プロデューサーが頭を抱えてしまう大失敗ものです。

個人の発信力は増していますが、やはり巨大メディアの影響力にはまだまだ敵いません。だから、個人の発信とメディアをどう結びつけていくのかが、これからの課題ですね。

■今のNHKは、トップにいるのがNHKマンではない

――堀さんは、フリーになられました。個人とマスメディアをつなぐ存在になろうとしていますね。

:そうです。しかし、正確に言えば、インターネット企業、テレビ局、発信者個人の三角関係をつくることが、ぼくの役割だと思っています。

――パブリックアクセスでメディアを変えようとしているのですね。しかし、プロの報道番組と比べると、まだ質が及びません。さらに、視聴率で放送の可否が判断されるため、パブリックアクセスを導入する局は多くはないと感じますが。

:パブリックアクセスの受け皿は、NHKしかないと思っています。スポンサーがいなく、公共放送のNHKは、みんなの放送局です。他局と並べるのではなく、NHKはぼくたち市民の放送局です。

ぼくたちには、NHKを良くしていく権利があります。この権利を放棄することは、もったいないことです。例えば、フジテレビを手に入れようと思ったら、ホリエモンさんのように血みどろな闘いをしないといけませんが、NHKは違います。

ぼくは、今、NHKを離れていますが、NHK改革をするために離れたのです。もし、あのまま、局内にいたら、発言権を奪われて、地方に異動させられて、やる気を失っていたことでしょう。

そして、「若いときは、ぼくもそういうことに燃えていたよ」と昼ご飯だけ食べることを楽しみにして過ごす管理職になっていたかもしれません(笑)。

――堀さんはツイッターの発言で幾度となく上層部から注意を受けていました。NHKは何を守っていたのでしょうか。

:局内の現場の人は、ぼくのことを応援してくれていました。離れてからも絶えず連絡を取り合っています。

今のNHKは残念ながら、トップにいるのがNHKマンではありません。JR東海から来ている松本正之さんが会長を務めています。当然バックには、JR東海をはじめ、産業界がいます。

公共放送なのですが、産業や政治の管理下に構造上置かれています。それは違うでしょうと、言いたいのです。

戦っている相手はNHKマンではなく、NHKを管理している人たちです。誰のための放送局だと思っているのかと問いたいですね。
みんなの放送局だから、NHKはパブリックアクセスを実現する必要があります。

でも、NHKにパブリックアクセスを導入するには、まだまだ時間が掛かります。だから、NHKを出れば、NHK職員以外と連携し、発信できます。

パブリックアクセスのように、色々な人が参画して、市民が一体となって情報発信するのに、新聞、テレビ、ラジオ、ウェブメディアなど媒体先は関係ありません。

■「投票に行けば、国は変わる」は嘘

――今回のドキュメンタリーは、堀さん自身の取材が6割、市民の投稿が4割です。次回作もこの仕組みで作られていくのでしょうか。

:次回作「変身2」の構想を考えているところです。テーマは、貧困問題です。日本を含めグローバルに貧困の実態を明らかにします。

世の中は、グローバル化し、国内の動きはすべて世界と連動しています。貧困問題なんてまったくそうです。中国やアフリカなどの新興国との関係の中で、経済が動いているので、その影として貧困が生まれています。

保険料が払えない無保険の子どもや、給食費、修学旅行費の未納・滞納など、子どもの貧困率も上がっています。2009年の厚生労働省のデータによると、17歳以下の7人に1人に当たる15.7%が貧困状態にあります。

国の教育機関に対する支出も低く、その額はOECD加盟国中ワーストクラスです。この問題を解決するには、メディア人がいくら言っても効果は薄いのです。映画の主人公は、ぼくではなく、貧困の渦中にいる、女子高校生のAさんかもしれません。

ぼくが何を主張しているのかというと、原発問題はテーマの一つで、全てではありません。本質は、一人ひとりが考えて、アクションしていかないと悲劇は生まれるし、繰り返されるということです。

他人任せにしていては、社会の課題は解決しません。誰かがやってくれるから待つのではなくて、あなたは何をするのかです。
この前、インタビュー質問を変えました。

前までは、「この国をよくするためには何が問題ですかね?どうすれば解決できますかね?」としていました。

聞かれた人は、「政治を変えるべき」「教育を変えるべき」「産業界を変えるべき」と饒舌に言いますが、いくらそれを言ってても何も変わりません。

では、「あなたは何をするのでしょうか」と聞くと、その瞬間に、脳がフル回転する様を見ました。「じゃあ、とりあえず部下の意見を聞くことからしてみようと思います」とか、「自分が熱中できることを見つけようと思います」などの回答を得られます。

自分は何ができるのかを考えると、自分のアクションプランを考え出します。ぼくも含めて、そんなにみんなはキリッとしていません。だから、これを自問自答し続けていくことが大事です。

私が何をすれば、目の前の人を笑わせられるのか考え続けるのです。

――その意識は投票率にも比例するのでしょうか。田原総一朗さんは、「お上意識がなくなっているから投票率が低い」と言いました。政治に頼るよりも、自分たちで活動していく人が増えているから投票に行かないと見ています。

:ぼくもまったく同じように思います。投票に行っても、どこにも入れるところがないだけです。だから投票率は下がっているのでしょう。

ぼくはまったく選挙に対しては過度な期待をしていません。メディアは、「投票に行けば、国は変わる」と嘘ばっかり言い続けています。世の中の仕組みは法律の設計から官僚たちが考えます。顔が変わっても、構造は変わりません。政治家が若者たちに目を向けるようになれば、社会が変わるというのは幻想です。

変えるためには、投票日に行くまでの日常生活の中で熟議し、社会運動や政治運動にかかわることです。投票日だけ、したり顔で、選挙権を行使したと偉ぶることはやめませんか。民主主義で一番大事なのは過程であって、何を多数決で選んだかではないと思います。

毎日、ちょっとでも議論した人は、立派な民主主義の参加者です。特に今の若者たちは結構考えています。

それなのに大人たちは、選挙に行かない若者は社会意識が低いと決めてしまう。愚かな人たちだと思いますね。

あなたはたちは、選挙に行って何を変えたのかと問いたいですね。本当に選挙に行ったら世の中は変わるのでしょうか。日本は投票率を上げようと、メディアもそういう伝え方をします。

投票率の問題ではなく、その日までに、いかに議論をしてきたのかが重要です。今回の参議院選挙での問題は事前に上がっていた法案について十分な議論がされていないことです。

それこそ、特定秘密保護法案や原発再稼動も、選挙の前からずっと言われていました。でも、選挙ではアベノミクスが成功していることで、経済に浮かれ、大事な議論を怠っていました。

もし仮に、スマフォから投票できるようになっても、何も変わりませんでした的な番組をするのではないでしょうか。「顔が良いから」「名前を知っているから」で投票する限り、何も変わりません。

近年は社会起業家が増え、国のセーフティネットに掛からない人たちが救われ出しています。今後は、国家の役割は、外交、防衛、教育、社会保障ぐらいのシンプルな範囲になってくるでしょう。

もしかしたら、数年後は、政治畑とはほど遠いが、ソーシャルメディアで有名なあの人が政界に入り、世の中を変えていくことになっているかもしれません。

――堀さんも政界進出を考えていますか。

:本当に変えなくてはいけないことが出てきたときには出るかもしれませんが、まだ分かりません。

――堀さんは、人としてやって良い事と、してはいけないことを把握していると感じます。私たちは、それをエシカル(倫理観)な人と言っています。堀さんの正義感はどこに原点があるのでしょうか。

:自分ではよく分かりませんが、社会的倫理観は相当崩れていますよ(笑)。エシカルというように崇高なものではなく、原点はもっと単純で、社会に出るなら、困っている人の手助けをしたいと思っていたからです。

ぼくは立教大学の文学部を出ました。政治家になって活躍するとか、商社に入ってバリバリ稼ぐなどはできないと諦めていました(笑)。

でも、誰かの隣にいって話を聞いて、それを言葉にすることはできると思ったからメディア業界に入りました。
表に見せないだけで、話せば皆何かしらの課題は抱えていますから、発信は終わらないです。


堀潤:
ジャーナリスト。1977年生まれ。01年にNHK入局。「ニュースウオッチ9」リポーターとして主に事件・事故・災害現場の取材を担当。独自取材で他局を圧倒し報道局が特ダネに対して出す賞を4年連続5回受賞。10年、経済ニュース番組「Bizスポ」キャスター。12年より、アメリカ・ロサンゼルスにあるUCLAで客員研究員。日米の原発メルトダウン事故を追ったドキュメンタリー映画「変身 Metamorphosis」を制作。13年よりフリーランス。NPO法人「8bitNews」代表。


「変身 - Metamorphosis」

作品名:変身 - Metamorphosis
監督 / 脚本 / 撮影 / 編集 / ナレーション:堀 潤
チーフプロデューサー:Yoh Kawano
映像提供:東京電力株式会社
音楽:坂本 龍一&U-zhaan「ODAKIAS」・upolu「Ambient!」
・青木 健「想い出す頃」「namida」・
Momoka Akiyama 「izureshiniiku」
制作協力:8bitNews
配給・宣伝:ユナイテッドピープル
2013年/63分/日本/Color HD

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