はたらく

民間エリートからNPOへ、「どれだけ働いても疲れなくなった」

2013年12月3日 11:56 AM はたらく--エシカルな働き方

「どれだけ働いても疲れなくなったんだ。子どもたちの笑顔があるおかげかな」――そう話すのは、今年11月、NPO法人Teach For Japan(ティーチフォージャパン、以下TFJ)に転職した武内隆明さん(52)だ。エリート街道を走っていた彼は、残りの人生を教育のために使いたいと、NPOの門を叩いた。(オルタナS副編集長=池田真隆)

教育業界を変えるために、武内さんは働く

武内さんのキャリアは、まさに絵に描いたようなエリートである。18歳で、米マサチューセッツ州のウィリアムス・カレッジに留学、同大を1984年に卒業した後、野村證券に入社。そして、野村NY勤務中に、ボストンの名門投資顧問会社のウェリントン・マネージメント・カンパニーに日本人として初めてヘッドハントされる。

その後、ゴールドマン・サックスの投資顧問会社や、UBS信託銀行の常務、投資会社チューリッヒ・スカダー・インベストメンツの副社長、プルデンシャル・ファイナンシャル・アドバイザーズ証券の社長を勤め、昨年の夏までの約7年間、上海で起業していた。今年の秋ごろに帰国し、下記の5つのポイントで転職先を探していた。

①日米のバイリンガルを使える
②日米のバイカルチュラルの経験を生かせる
③教育業界に身を投じたい 
④ベンチャー的に小さい会社を大きくするのが得意
⑤とは言うものの、大きな組織がアメリカにあり、サポートしてくれれば、心強い

そのときに、TFJの松田悠介代表の著書『グーグル、ディズニーよりも働きたい「教室」』(ダイヤモンド社)を読み、講演会を聞いた。5つのポイントに合致し、転職を決めた。株式会社ではなくNPOだが、5つのポイントが満たされていれば、十分だったと言う。

TFJは、2010年に設立された団体だ。「日本のすべての子どもたちが質の高い教育を受けることのできる社会」を実現するため、優秀で情熱のある若者を選抜し、2年間学校現場に送り出す。送り先の学校は、学校現場の課題解決に向けて先進的に取り組んでいる公立学校を優先して選ぶ。送り出した若者にはリーダーシップ力を育成し、子どもたちには学力向上や将来に希望を持たせることを狙いとする。

同様のモデルを、アメリカ、イギリス、中国など世界32カ国で展開している。アメリカにある団体は、2010年ビジネスウィーク誌の調査で、人文系就職先ランキングでグーグルやアップルなど大企業を抑えて1位となり、アメリカ社会に大きな影響を与えた。

武内さんはもともと、教育に関心があった。原体験は、18歳で、米ウィリアムス・カレッジに留学したことだ。経済学と社会心理学を専攻し、リベラルアーツを学んだ。

「本場のリベラルアーツで鍛えたので、アウトオブボックス(常識にとらわれないの意)の考え方を習得した。TFJでリベラルアーツを伝えたい」(武内さん)

今年4月から、TFJの1期生となる11人の若者たちが、2年間をかけて全国の学校に送り出されている。2人1組のペアもあれば、単身で送られている場合もある。

このプログラムに取り組むために、新卒生は最初のキャリアを賭け、社会人は大胆なキャリア転換をした上で、挑んでいる。「課題はたくさんあるが、それぞれ挫けないでがんばっている。絶対にこの経験が後の人生に大きく影響する」と武内さんはエールを送る。

実際、アメリカやイギリスでは、このプログラムの参加者をヘッドハントしたいと、マッキンゼーやゴールドマン・サックスからのオファーが絶えない。子どもと向き合い、半歩先を照らしてあげる事で、諦めない力とリーダーシップが鍛えられるからだ。

子どもたちのため、教育の今後のため、活動しているが、日本ではハードルは多い。大きく分けて3つある。1つは、プログラムへの信頼がまだまだ低いことだ。「世の中的に知名度がまだないので、新卒一括採用が主流の日本で、2年間費やして本当に大丈夫なのかと心配される」と武内さんは話す。

2つ目は、全国の教育委員会との信頼関係づくりだ。理念に賛同してもらえるところは少なくないものの、新興のNPOということもあってか、具体的な連携にむけて協議が進むケースは限られている。

そして、3つ目は、教員免許を持っていないと教壇に立てないことだ。特別免許状制度の活用や、新しい仕組みづくりに向け、関係省庁や事業の目的に賛同してくれる教育委員会との連携を一層進めていく必要がある。

しかし、このハードルを乗り越え、ミッションを実現するために武内さん含めTFJは戦う。民間企業で働いていたころと比べて、働くモチベーションは変わらないが、唯一変わったのは、「疲れにくくなったこと」と話す。

理由をたずねると、「子どもたちに『ありがとう』と笑顔で言われるからかな。昔と変わらず、朝から晩までほぼ休みなく働くのだけど、全然疲れないんだよね」と笑って答える。

疲れを感じていないのは、松田代表も同じだ。松田代表は毎朝3時50分には起床し、教育関連などを中心にインプットに費やす。教師向けの講演会は、公務員が休みを取れる土日が多く、休日はほぼ講演会で全国を周る。

武内さんは、TFJに入る前に、松田代表の働きぶりを見て、「よく疲れないですね」と聞いた。しかし、今は松田代表の気持ちが分かると言う。「子どもたちとプログラムに参加してくれる若者たちのために働くから、日々ワクワクしている。そういえば、松田代表も同じことを言ってたね」。

Teach For Japan

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