はたらく

コミュニティデザインの源流から考える生協の未来

2016年5月19日 3:25 PM はたらく--エシカルな働き方

組合員数が日本有数の生協である生活協同組合コープこうべは良心的な小売り業から、「社会的課題を解決するトップランナー」へと舵を切る。今後、高齢化や孤独死、認知症などの地域の問題に対応した事業に注力していく。助け合いの精神の「協同組合」である生協の組織には何が期待されているのか、社会的事業を行う先駆者から話を聞いていく。第一弾はコミュニティデザイナーの山崎亮さんをお呼びし、コープこうべの本田英一組合長理事と対談した。(聞き手・オルタナS副編集長=池田 真隆 写真=八木 駿祐)

社会問題を解決するために、生協に求められる役割について話し合った

社会問題を解決するために、生協に求められる役割について話し合った

――もし山崎さんがコープこうべの職員だったら、どのような仕組みで社会的課題を解決していきたいでしょうか。

山崎:もし職員だったら、ファシリテーショナルドライバー制度を提案したいですね。宅配のドライバーが、地域のお母さんがたに、食材を渡し終わったら、「すみませーん!10分だけお時間いただいていいでしょうか」と聞き、「何か困っていることはないですか?もしあればこの付箋に書いてください」と伝えます。

例えば、小さいお子さんをお持ちの30代のお母さんから、「ちょっとした買い物などで近所に出かけたいときに、子どもの面倒を見てくれる人がいてくれたら助かる」というリクエストが出たとしましょう。そしたら、ドライバーは、「じゃあ、次回の配達までに、そういう仕組みができないか考えておいてくださいね」と言い残して、次の配達先に向かいます。

そして、また宅配に来たときに、そのお母さんに、「そういえば、例の件、考えておいてくれましたか?」と尋ねます。お母さんは、「うーん、たとえば、子どもを預かったら、地域通貨のような券をもらえるなんてどうかしら」なんて答えるかもしれません。

そもそも生活協同組合は、人々が生活の中で困ったことを、協同で解決していくことで成り立ってきました。食や施設だけに限らなくて、生活の中で出てくるあらゆる課題をみんなで話し合って、解決する仕組みです。

トラックの扉を開けると、お母さん方の大量の付箋が貼ってあるのも良いでしょう。毎週、届けるたびに、「調べました?」と聞くと、最初はうっとうしいと思われてしまうかもしれませんが、徐々にどれくらいのトーンで行けばいいのか分かるようになってくるはず。

お母さんがたは、自分からしゃしゃり出ることは嫌なのだけど、ドライバーが来て、話を聞いてくれれば、「なんか良いきっかけをもらったわ」と思ってくるでしょう。

ドライバーが解決したわけではないけど、解決するきっかけをくれたと思ってもらえれば、「じゃあ、コープさんで注文しよう」となるはずです。いま、コープこうべさんのドライバーは何人くらいいるのでしょうか?

コミュニティデザイナーの山崎さん

コミュニティデザイナーの山崎さん

本田:1000人ほどいます。

山崎:そんなにいるのですね!その人たちがコミュニケ―ションを少し変えるだけで、困っていることを話し合えるきっかけを生み出せます。これがうまくいけば、他のドライバーに伝えて、10人、20人と増えていけば、「コープさんでもユニークなドライバーが増えてきたわね」と言われ出します。だから、ぼくがもしコープこうべさんの職員になったらドライバーがやりたいですね。

本田:我々の仕事は角度を少し変えるだけで風景がガラッと変わります。山崎さんがおっしゃられたことのように、組合員との距離感を近くするものとして、以前からあるのですが、宅配担当者は「地域担当ニュース」というのを作って、それを訪問した組合員宅に配っています。

こうした動きは、営業の視点から見ると、羽毛布団など高価なものを購入してもらうためのコミュニケーションとして役立っています。値段が張るものを買ってもらうには、組合員からの信頼が必須です。

職員と組合員とのコミュニケーション次第では、高価なものを販売するだけでなく、社会的課題の解決へ踏み込んでいくことも十分可能だと思います。
去年から、一部の店舗に「暮らしの相談係」を実験的に設けました。店長経験のある50歳過ぎのベテラン職員を配置して、組合員に困っていることはないか聞く係です。

しかし、この仕組みを始めて気付いたのは、いざ、組合員と積極的に話をしてみても「そもそも組合員は困っていることを言ってくれない」ということです。また、「本当に困っている人は店に来ていないのではないか」とも感じ始めました。

そこで、買い物に来たご高齢の方が荷物を持って帰ろうとしたとき、「ご自宅までお荷物を運びますよ」と伝えて、道すがら、世間話をしながら帰りました。そして、「せっかく来たんだから、お茶でも飲んできなさい」と家に誘われました。

すると、「私は大丈夫なんだけど、知り合いで、こんなことに困っている人がいるのよ」という話を聞けたそうです。

山崎:おもしろいですね!すでに、やっていたのですね。

コープこうべの本田組合長理事

コープこうべの本田組合長理事

本田:新しいことは半分くらいが失敗すると思います。ですが、「こんなことまでしてもいいのか」と視野が広がれば、やってみて初めて気づくことがあったり、楽しいと思ったりします。そして、もし組合員が喜んだりすると一気に力が出てくる。

山崎:生協の歴史は、そのようなことの繰り返しだったはずです。生活協同組合の歴史をたどると、1840年代にイギリスのマンチェスター郊外の都市ロッチデールから始まったとされています。ここで生協が生まれる前に、この仕組みをイギリスの100以上の地域で試しましたが、どれも失敗しているのです。

当時のイギリスは産業革命の時期で、労働者は低賃金で、生活に苦しんでいました。そのため生協では、「現金払いをしない」、「付け払い」などを可能にして、品数を増やしましたが、これが失敗の原因と言われています。

一方、ロッチデールの生協は、品数を絞り、現金払いにしました。当時は相当嫌がられたらしいですが、結果として、このやり方が奏功しました。

この生協をつくったのは、当時、20~30代の若者たち。彼らは過去の失敗から学び、試行錯誤しながらつくりました。だからいま、若い職員が試行錯誤することはとても大切です。いまだからできる、半分くらい失敗する施策をどれだけ生み出せるかがものすごく重要なのです。

本田:いま、従来の良心的小売り業から、一気に社会的課題を解決する事業体のトップランナーに移ろうとしています。ですが、完成形はないと思っています。完成形があっても、いずれは衰退していく。完成しないほうが、ずっと発展していく可能性があります。

歴史を振り返ると、コープこうべは大正10年に賀川豊彦の指導でつくられました。一番すごいと思ったのは、普通選挙がない時代で、女性の社会的地位が極めて低かったときに、組合員たちの組織「家庭会」をつくったことです。家庭会では、一般家庭のお母さんたちが自分たちで困りごとを共有して、教え合いました。

どこまで行けば、完成形になるのかは分からないのですが、さまざまなことを、組合員も職員も徹底してやりぬきたいと思っています。

今年のテーマは、対話と試行錯誤です。対話はすでに2~3年間続けてきていますが、それまでは、組織合意を図るには、会議が必要だと思っていました。実は会議では組織合意を取ることはできないと、この歳になってやっと分かりました(笑)。

お互いに好きなことを言い合って、共感する部分が出てこないと合意は生まれません。一方的に、チャレンジしろと伝えても、なかなか人間はチャレンジしません。市場原理で生きているから、新しいことに取り組もうにも一定の成功確率が見えないとやってはいけないのだという空気があります。

試行錯誤というからには、成功確率は5割以下と思っています。なので、どんどん失敗しなさいと言っていますが、なかなかしないものです。

先ほど話した暮らしの相談係りの職員が、高齢者の荷物を家まで運んで、悩みを聞いた話なのですが、その職員はこのことを店長に伝えて、組合員の荷物を持つ仕組みを取り入れようと提案しました。ですが、店長は困った顔をして、「気持ちは分かるが、難しい」と。

もし、そういうことをしてしまうと、「あの人の荷物は運んでいたのに、どうして私の荷物は運んでくれないの」ということになってしまう。そう言われたら店として対応に困ってしまうのです。

【新しいことを大きい組織で導入していくためには、どうすればよいのか、中編はこちら

本田英一:
神戸大学法学部卒。1974年に灘神戸生活協同組合(現コープこうべ)に入所し、店舗運営、情報システム、経営企画などに従事し2001年に役員に就任後、2011年より組合長理事となり今に至る。また現在、日本生活協同組合連合会副会長、兵庫県生活協同組合連合会会長理事などにも就任。

山崎亮:
studio-L代表。東北芸術工科大学教授(コミュニティデザイン学科長)。慶応義塾大学特別招聘教授。
1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院および東京大学大学院修了。博士(工学)。建築・ランドスケープ設計事務所を経て、2005年にstudio-Lを設立。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりのワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、市民参加型のパークマネジメントなどに関するプロジェクトが多い。「海士町総合振興計画」「studio-L伊賀事務所」「しまのわ2014」でグッドデザイン賞、「親子健康手帳」でキッズデザイン賞などを受賞。
著書に『コミュニティデザイン(学芸出版社:不動産協会賞受賞)』『コミュニティデザインの時代(中公新書)』『ソーシャルデザイン・アトラス(鹿島出版会)』『まちの幸福論(NHK出版)』などがある。

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