はたらく

コミュニティデザインの源流から考える生協の未来(2/3)

2016年5月26日 8:31 PM はたらく--エシカルな働き方

組合員数が日本有数の生協である生活協同組合コープこうべは良心的な小売り業から、「社会的課題を解決するトップランナー」へと舵を切る。今後、高齢化や孤独死、認知症などの地域の問題に対応した事業に注力していく。助け合いの精神の「協同組合」である生協の組織には何が期待されているのか、社会的事業を行う先駆者から話を聞いていく。第一弾はコミュニティデザイナーの山崎亮さんをお呼びし、コープこうべの本田英一組合長理事と対談した。(聞き手・オルタナS副編集長=池田 真隆 写真=八木 駿祐)(*前編はこちら

社会的課題を解決するためにコミュニティの役割について話し合った

社会的課題を解決するためにコミュニティの役割について話し合った

――新しいことを大きい組織で導入していくためには、どうすればよいでしょうか。

山崎:米国の哲学者ジョン・ロールズは著書『正義論』で、平等の原理を書いています。この原理では、3つの条件があれば、平等と言えるとしています。その1つは、みんなに対して、こういうことをしているから声をかけてねと伝えること。先ほどの例ですと、お悩み相談をやっているということを、お店に来た人は知る権利がありますので、周知する必要があります。

もちろん、その情報を知ったにもかかわらず、相談に来ないお客さんもいます。ですが、相談に来た人には、徹底的に相談に乗ります。これが2つ目で、相談に来た人にどれだけ注力しても良いようにします。

そして、3つ目の原則は、それをやっていていいなと思ったら、誰でも提案していいという環境をつくっておくことです。一人のお客さんに、荷物を運んでいるサービスを見て、私もやってほしいと言ってくるお客さんがいたら、やれる範囲で、それに応えていく。そういうリクエストがものすごく多くなってきたら、また新たな平等の原則をつくったらいいのです。

例えば、サービスの対象者は、荷物の半分を自分で持つ人に限るなど、設定を自分でつくってしまえばいい。

最初は誰も、相談に来ないから、荷物を持ち、道すがら悩みを聞きた。そうすることで、そもそもの目的を達成できた。そして次にすることは、どのようなお悩みが本当の悩みなのかを突き詰めて、対話するきっかけをつくっていくことです。

これは、おそらく、賀川さんたちが、神戸の灘で生協を立ち上げたときにしたことと同じことだと思います。賀川さんたちは、貧しい人の家に入り支援をしましたが、「なんでおれの家には来てくれないんだ」という話は当然出てきたと思います。

きっと彼は、そのような声に可能な限り応え、その都度、新たな条件を設けていったはず。みんなに対して、まずはやる。そして、やろうぜという人と手を組む。そして、いいな!おれもやってほしい!という人もちゃんと受け入れる。これを回していくことが平等の原理だと思う。

結果の平等ではなく、機会の平等が必要なので、職員のアイデアが求められます。

自分たちで枠にはまってはいけないと力を込める本田組合長

自分たちで枠にはまってはいけないと力を込める本田組合長

本田:4月20日ごろ、熊本・大分と被災地に行っていました。自主避難した人が集まる場所に行きました。困っていたので、手配がつくものから手配しようとしたら、行政の人が、「困ります」と。理由は、「ここは避難所ではない。この方は自主避難をされているのです」と。

行政が避難所として定めていないから支援ができない。行政も全体最適なルールのもとで判断しているので、仕方のないことだとは思うのだけど、この仕組みに疑問を抱きました。

同時に、われわれも、コープこうべの168万人の組合員に対して、自分たちで枠をつくってしまっているのではないかと気付きました。誰にでもできることしかやってはいけないということにしてしまうと、ほとんどできることはなくなる。

やる前に、アイデアを自分たちで潰してしまう。例えば、暮らしの相談係りに関して、もう一つ話があります。一人暮らしの高齢者だと、新しい電球に交換することが辛い。

そこで以前のある会議で、宅配に行ったドライバーが交換してはどうかという話になったが、「そんなことして、あちこちから要望が来たらどないすんねん。一個いくらで対応するのだ」などの意見が出て、そのようなことはできないとなった。

ところが、暮らしの相談係りができて、実際に組合員に話を聞いたら、電球が切れても、「そもそも電球を代えてくれなんて言ってはくれない」と分かった。アイデアの種を全部自分たちで潰してしまっていたので、そもそも事実が何も分かっていなかったと気付いた。何もせずに、予測で話してしまう。

日本社会は今や、安定した成長社会から、一律的に対応できない様々な社会問題がぼこぼこと出てきている時代になっていて、これまでのような全体最適の姿勢では、ほとんどそれらの課題に対応できないと思う。

ファシリテーションの力で、市民を変えていく

ファシリテーションの力で、市民を変えていく

山崎:コープこうべは組合員の出資によって成立していて、市民の共感によってできているので、行政と比べて、攻めてもいい組織だと思っています。名古屋の南医療生活協同組合では、1000人会議や10000人会議を繰り返して、病院をつくりました。

この会議はまずは100人規模から行い、徐々に多くの人を巻き込み、最終的に病院の建て替えを成し遂げました。これは、行政だと難しい。行政だと難しいことを組織をうまく使って、良い仕事につなげたなと思った。

彼らは病院を建て替えるとき、地域の人に「話したい人はみんな来てくれ」とお願いした。それでいいはず。組合員ではない人たちも入れながら、議論していくのが、生協だと分かってくれれば、新たに組合員になってくれるかもしれない。

会議では、病院にはきれいな花が咲く庭があったらいいという話が出てきて、植物に詳しいお母さん方が集まった。そして、入院している患者が落ち込まないような本もあった方がよいということになり、ブックコーディネーターのチームができました。このようにして、20ほどのチームが生まれました。

みんなの意見を反映しながら進めるので、設計図はあるのですが、途中でいろんな意見が出すぎて遅々として進まない。通常の建築よりも長い時間をかけて検討したそうです。ですが、完成したら、花のチームは花壇のボランティアになっています。本を選ぶチームは本のコンシェルジュになっています。このようにして、20種類のボランティアチームが院内を周り、入院患者の環境を整えています。

73年生まれを強調したうえで発言しますが、社会主義がやろうとしていたことを、国全体で実現しようとすると、ロシアがそうであったように難しいと思っています。でも、国ではない形で実現するのなら可能な点がたくさんあるでしょう。生活協同組合の活動は○○主義と言わなくていいと思いますが、「社会主義的」であることは間違いないと思います。

社会主義的なことは、国や行政では大変ですが、生協の組織で行えばうまく回る理念だと思います。現に、南医療生協病院ではできていました。

良い品質のものを安く売ることは、社会的課題を解決するために、やらねばならない1つの事業と位置付けられます。ですが、社会的課題の解決には、やるべきことはまだまだたくさんあります。だから、レンジを広げる必要がある。あるいは、もともとコープこうべがやろうとしていたことに戻る必要があります。

賀川さんやロッチデールがやろうとしていたことに戻すのです。このことに終わりはない。次の課題に挑み、試行錯誤する職員を、組織の中に増やしていくことはすごく大事なことです。このことこそ、生活協同組合の理念に沿った活動なのだと思います。

【168万人いる組合員をお客さんから、主体的なプレイヤーに変えるには?山崎さんがその秘けつを後編で明かします。後編はこちら

本田英一:
神戸大学法学部卒。1974年に灘神戸生活協同組合(現コープこうべ)に入所し、店舗運営、情報システム、経営企画などに従事し2001年に役員に就任後、2011年より組合長理事となり今に至る。また現在、日本生活協同組合連合会副会長、兵庫県生活協同組合連合会会長理事などにも就任。

山崎亮:
studio-L代表。東北芸術工科大学教授(コミュニティデザイン学科長)。慶応義塾大学特別招聘教授。
1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院および東京大学大学院修了。博士(工学)。建築・ランドスケープ設計事務所を経て、2005年にstudio-Lを設立。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりのワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、市民参加型のパークマネジメントなどに関するプロジェクトが多い。「海士町総合振興計画」「studio-L伊賀事務所」「しまのわ2014」でグッドデザイン賞、「親子健康手帳」でキッズデザイン賞などを受賞。
著書に『コミュニティデザイン(学芸出版社:不動産協会賞受賞)』『コミュニティデザインの時代(中公新書)』『ソーシャルデザイン・アトラス(鹿島出版会)』『まちの幸福論(NHK出版)』などがある。

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