はたらく

「中卒だけどハートは負けない」、仮設をまとめた漁師

2017年1月11日 12:30 PM はたらく--エシカルな働き方

大震災を経験した東北の小さな漁師町にはどのような人が住んでいるのか。東日本大震災から6年が経過したなか、復興へ向けて立ち上がる人々の素顔を若者が追った。自宅や漁船が被害に遭い、親友まで失った彼/彼女らはどのような思いで日々を生きているのか話を聞いた。

舞台は、岩手県陸前高田市広田町。人口3500人で、広田湾に面した漁師町。震災時には、広田湾と太平洋の両側から津波被害を受け、本島と分断された。死者・行方不明者は50人超、1112世帯中400の世帯が全壊・半壊となった。町に1校あった中学校も津波で流され、150隻あった漁船も1隻を除いて全てなくなった。

広田町は外部のNPOを受け入れていなかったが、震災を機に、この町はある団体と出会った。20代の若者たちからなるNPO法人SETだ。

同団体では、毎年都内に住む大学生を広田町に連れてきて、住民とともに地域の課題を解決する企画を行っている。今回、SETの学生メンバーが広田町の住民にインタビューした。

◆「中卒だけどハートは負けない」

第二弾は、陸前高田市広田町長洞地区の漁師・戸羽忠夫(とばただお)さん(70)。東日本大震災のとき、仮設住宅の副自治会長として、ストレスがかかる集団生活を指揮した。学校は中学校までしか行っていないが、海の上で生きることで、人としてのあり方を学んだ。「小さいことでも、困っている人のためになりたい」と力を込める。(NPO法人SET=河面涼代・日本女子大学家政学部3年)

海から教わった「生活力」をで復興に貢献した戸羽さん

海から教わった「生活力」で復興に貢献した戸羽さん

戸羽さんは中学卒業後、陸前高田市を代表する日本酒の製造会社、酔仙で働き、36歳のときに親と同じ漁業の道に就いた。そして、65歳のとき、東日本大震災が起こった。戸羽さんの住む長洞地区も、甚大な被害を受けた。戸羽さんの築78年の自宅も津波で流された。船も流されたが、幸いにも家族は無事だった。

圧倒的な自然の脅威を目にしたが、「海で培った生活力」を頼りに立ち上がった。戸羽さんは2011年7月2日から仮設住宅に入居し、仮設住宅副自治会長になった。

仮設住宅には350人の住民が暮らしていた。それぞれが胸の中に形の異なる不安や悩みを抱えていた。その舵取りをするのは大変なことだ。「人生で一番大変だった。もうやりたくないなあ」と言うが、達成感からかその顔には笑みが見える。

特に大変なこととして、「物資の分配」を挙げた。モノが不足しているなかで、物資の取り合いにならないように、工夫を凝らした。

戸羽さんはいくつかのルールを設けた。その一つは、「何事も高齢者と子どもを優先すること」、「番号順に、物資を取る時間を区切る」ということだ。

こうした工夫の裏には、戸羽さんが集団生活で感じた、トラブルをなくすことの大切さがある。戸羽さんは、会社生活や漁師として生きる中で、人と人のつながりの大切さを実感してきた。つながりを大切にするためには、「穏便に過ごすことがベースになる」。

戸羽さんは率先して、仮設住宅の住民とボランティアの交流を図った。「ボランティアにせっかく来てもらったのに、持って帰ってもらえるものが何もないから」と、震災当時の話を聞かせる。

もちろんボランティア側としては、お土産などを求めてはいないが、それでも相手を想った気配りができるところが戸羽さんの魅力だろう。

震災の影響が少し落ち着いてからは、「ふくちゃん」と呼ばれるフクロウのキーホルダーを仮設住宅で暮らす女性たちが作り、ボランティアにお土産として持ち帰ってもらうようにした。

「ボランティアに来てもらうだけでなく、何か持ち帰ってもらいたい」という戸羽さんの想いが、住民にも通じた証だ。

このように仮設住宅を副会長として支えてきた戸羽さん。周囲からは「ここの仮設住宅はトップの人がしっかりしているね」という評判の声が後を絶たない。

戸羽さんの自宅で話を伺った

戸羽さんの自宅で話を伺った

他にも、戸羽さんの復興支援の活動は広田町内に留まらず、富山県まで及んでいる。2011年12月から、富山県高岡市立成美小学校で、教育活動の一環として震災の話を伝えに行った。

大切に保管している小学生からのお礼の手紙も見せてもらった。戸羽さんにとって、成美小学校での活動で一番嬉しかったことは、小学校のお楽しみ会に招待されたことだ。

小学生たちが歌やダンスを披露する姿を見て涙が出たそうだ。「メガネがあって(泣いているのを隠せて)良かったよ(笑)」と言う。

最近では、被災者の医療費負担を免除するために、歩いて230人分の署名を集めたそうだ。請願審査を出し、許可されたため、補助金が出ることが決まっている。歩いて署名を集めたことで、より被災者の今を知れたそうだ。

「小さいことでも、困った人のためになりたい」と戸羽さんは言う。このハートは海の町で培った。

「中卒だけどハートは誰にも負けない!」と言う戸羽さんの笑顔に元気をもらった。これからもその温かいハートが、多くの人を助けていくだろう。

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